そして・・・女の子はだんだんと不思議な輝きをあたりにふりまき始めました。青年はそのあまりのまばゆさに思わず目を閉じました。あけられなくなった青年のまぶたに、様々な色が浮かんでは消えていきました。木々の緑、空の青、女の子の黒い髪、そして虹のような七色の輝き・・・。
そして、ふと、不思議な声が聞こえてきました。
「ねえねえ知ってる?」
「なになになに???」
「今日、夢売りが来るんだって」
「へ~。そうなんだ~」
「でも夢って、売るものなのかな?」
「買っても仕方がないよね?」
「いい夢ばかり見てるのも疲れるかもね」
「悪い夢ばかり見るよりはいいけどね」
あはは~と大きな笑い声が響きました。
「ねえ、でも夢ってなあに?」
「なんだろう?」
すると、もうひとり別の声が響きました。
「夢はね、心のなかを映し出すものなの」
それはあの女の子の声に似ていると青年は思いました。
「心の中にある不安や心配、希望や願い、ずっと心の中にしまっておいたはずの記憶、そういうものが現れては消えていくべつの世界なの」
「ふうん。。。」
子供達の声はまだよくわからないような返事でした。
「でもね、夢にはもうひとつ役目があるのよ」
「なになになに?」
「大事な人がどうしても伝えたいことがあるとき、大事な人にどうしても伝えたいことがあるとき、夢は夜の闇を突っ切って、相手に想いを伝えることができるのよ」
「夢の中に来てくれるの?」
「そう。でもそれは心が澄んでいるときにしか起こらないから、人から買ったような夢を見ていたら、想いは決して届かないでしょうね」
大事な人にどうしても伝えたいことがあるとき・・・。
想いは決して届かない・・・。
青年の心になにかがぐさりと刺さったようでした。

「残念ですがお亡くなりになられました」
医師の声がとても冷たく聞こえました。
病院のベッドに横たわって目を閉じているのは、朝手を振って自分を見送ってくれたはずの母でした。
やっと就職が決まって、これから少しは楽をさせてあげられると思っていたときのことでした。
これはなにか悪い夢に違いない。そう思って、それからただひたすら働きました。いつかこの悪夢から覚める日が来るだろうと、毎日毎日ただひたすら夢を売り続けました。
でも売れば売るほど、なぜか心の中に冷たい風が吹いてくるような・・・。
「私の声はなにも届かない」
だれかがそう言っています。
「私の想いは気づいてもらえない」
ほかの誰かがまたそう言っています。
「夢は売るものではなく、心のなかにあるもうひとつの世界への扉。扉を閉ざした者には、決して想いは届かない」
「どんなに苦しくてもいい。大事な人に夢でいいから逢いたいのに」
夢でいいから逢いたい・・・。
僕も、母さんに、夢でいいから逢いたい。
青年の目から涙があふれました。

涙をぬぐうと、そこはあの大きな樹の木陰でした。
女の子はさっきと同じように、枝に腰をかけて、黙ってこちらを見ています。
「僕はいったい・・・?」
「とりあえずお水でも飲んだら?」
女の子が素っ気無く言います。
「でもこの水は・・・」
「まあいいから、飲んでみたら?」
この水は僕に飲まれたくないと言ったのは君だろうといいたい言葉を飲み込んで、青年は泉の水に自分の姿を映しました。手を入れて、いまそれを飲もうとした瞬間、そこに映ったべつの姿をはっきりと見ました。
「母さん。。。」
母はあの朝手を振ってくれたときのまま、笑っています。
急な事故で、急いでかけつけたときにはすでに息がなく、なにも言うことはできなかったあの日・・・。
「間に合わなくて、ごめん」
青年はしぼりだすような声を出しました。
「頑張ってね」
とてもやさしい声が聞こえました。

あたりには夕闇がたちこめています。
鳥達も家路にむかっているようです。
風が冷たくなってきました。
女の子は青年の前に立つと、その手に白いハンカチを握らせました。
「お母さんが、あなたの就職祝いにあげるつもりだったんですって。」
青年はそのまっしろなハンカチを黙って見つめていました。
なぜ女の子がそんなことを知っているのかなんてどうでもいいことだと青年は思いました。大事なのは、想いが伝わることなのだと。
青年はまたあふれそうになった涙をこっそりとそのハンカチでぬぐいました。
「さあ、いつまでもここで油を売ってないで、仕事しなくちゃいけないな」
青年の言葉に、女の子はくすっと笑いました。
「でも、ここでは夢は売れないわ。」
青年も負けずにくすっと笑いました。
「夢はもう売らないよ」
女の子はびっくりしたように目を見開きました。
「あら、どうして?」
その言葉に青年は朗らかに答えました。
「夢は自分で扉をあけるものだからね」

まちはずれに大きな樹とこんこんと湧き出る泉のある街に行ったら、あなたも女の子に逢えるかもしれませんね。名前を夢の精と言うそうです。

       (FIN)

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「夢を買いませんか?」
青年は声をはりあげて往来を歩き回りました。
「夢はいかがです?すてきな夢がありますよ。一度のぞいてごらんになりませんか?」
いつもなら、青年が一渡り歩いたところで多くの人に囲まれるのが常でした。けれど、この街はどうしたことか、青年の呼び声に全く関心がないようなのです。そう、それはまさしく『無関心』という言葉がぴったりでした。青年の声は、風か空気のように人々の間を通り抜け、まるで心に止められる暇もないようでした。

「ふう~っ」
大きなため息が青年の口からもれました。
もう足はくたくた、のどは渇いて声もかすれ気味です。どこかで休みたいと思うのですが、今日はまだ一つの夢も売れていませんし、この街の雰囲気にどこか不可思議なものも感じて、ついいつまでもぶらぶらと歩いていました。
かなり街外れまで来たとき、青年はそこにこんこんと湧き出る泉を見つけました。茂った大きな樹が泉を覆うように木陰を作っています。さらにはまるで休んでくれと言わんばかりに、小さな木のベンチも置いてありました。
「ちょっと休憩かな?」
ひとり言を言って、泉の冷たい水に手をひたし、一口飲もうとしたときです。
「だめよ!」
少し甲高い、しかしぴしゃりとした言葉が青年の行動を止めました。
声のしたほうを探すと、大きな樹の枝に腰をかけた小さな女の子がこちらを見下ろしていました。
「どうしていけないんだい?泉の水はみんなで飲むもののはずだよ。それとも、これは飲み水ではないの?」
青年は女の子をなだめるような優しい口調でたずねました。
女の子は足をぶらぶらさせながら、しかしまなざしはしっかりと青年をとらえて言いました。
「いいえ、この泉の水は飲み水よ。この街の人はみんなこの水をくみにくるわ。」
「だったら、なぜ・・・?」
「だって、あなたはこの街の人ではないもの。」
女の子はいかにも当然のように、きっぱりと言い放ちました。
「そんな。水は必要な人のためにあるんだろう?この街の人間じゃないっていうだけで『飲むな』というのはあんまりひどいよ。それにここにはそんなことを一言も書いていないし。お金が必要ならちゃんと払うから、少し飲ませてくれないかな?」
女の子は、黙って青年を見つめています。
「もし法律で決まっていることだとしても、この水をこんなに飲みたいという人がいて、それを君が見逃しても罪になったりしないと思う。」
女の子はやはり黙ったままです。
「だいたい、この街の人はみんな僕のことを無視するし、なんかおかしい。変だよ。こんなにいい夢をいっぱい持ってきているのに、興味がないなんてあり得ない。いい夢を見て、気持ちよく寝られることがどれほど幸せなことかわからないんだね、きっと。」
だんだん強い口調になった青年に驚いたのか、女の子は大きく目を見開きました。
「とにかく、君が飲むなと言っても、ぼくは今のどがとても渇いているんだから、この水を飲ませてもらうよ。」
こんなことを小さな女の子に言っても仕方がないと思いながらも、青年はひたすら話し続けました。
「ちがうのよ」
女の子がやっと答えました。
「街の人たちはなんにも関係ないわ。みんな、あなたのことなんて見えていないんだもの。」
「どういうこと?」
「とにかく、あなたに飲まれるのを嫌がるのは泉の水なの。ましてやあなたは夢売りなんでしょう?泉は夢売りが嫌いよ。決してあなたに飲まれようとはしないわ。」
「そんなばかな・・・」
すこし自嘲気味に笑って、青年はすっと泉の水に手を入れました。
なにがなんでも飲んでしまえばいいんだ~と思ったその瞬間、自分の手元を見て言葉を失ってしまいました。
なぜなら、泉の水をすくったはずの手には、サラサラと輝く砂粒が残されていたのですから。
女の子は青年のとまどいをおかしそうに見つめています。そして、木の葉が揺れるようにくっくっと笑って、青年にいいました。
「ほらね。だめなのよ、夢売りさん。あなたの夢は本物ではないから、泉は水を分けてくれないのよ。」
青年はその言葉にむっとしました。
「僕の売る夢のどこが偽物だと言うんだ?夢売り買い人協会の信用保証だってついているいい夢ばかりがあるというのに。」
「まあ」
今度こそ女の子は木の枝がしなるほどに、ころころと笑いころげました。
「なにがおかしいんだ。」
青年の方はまったく面白くありません。真っ赤になって、女の子をにらみつけました。
「だって、夢に品質保証の優良マークなんてどうして必要なの?そんなことだから、よけいに本物じゃなくなるのよ。」
「本物、本物って・・・。それじゃあ、君の言う本物の夢はどんなものなんだい?」
こんな小さな女の子相手に大人気ないとは思いましたけれど、それくらい頭に来ていたので、やや皮肉をこめて青年は言いました。
女の子はふっと首をかしげ、にっこりと笑うと、「わかったわ」と答え、青年の頭上の枝から、いとも軽々とピョンと飛び降りました。
そして、ゆっくりと泉に近づくと、青年がいくらすくっても砂になってしまったあの泉の水を美味しそうに飲みました。
頭上では、大きな樹がさやさやと葉を揺らしています。

   (つづく)

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ジリリリリリ~~~~。
目覚まし時計をとめて、春の妖精は大きなあくびをしました。
まだ眠いな・・・。まだこんなに寒いんだもの。まだ早いよね・・・。
再びうとうととしかけて、ハッとしました。
ついこの間まで窓の外にあったはずの白い雪景色はもうありません。
冬の妖精たちが、そろそろお引越しの準備を始めたようです・・・。
「きゃあ~大変。お寝坊しちゃった^^;」

地上では子供達が春の訪れを待ちわびていました。
「雪もきれいだし、雪遊びも楽しかったけどね~。」
「でも、やっぱり春がいちばんだよね~。」
「春はあったかいものね~。」
「春はきれいだもんね~。」

でも、今年はすこし春が来るのが遅いようです・・・。

「まだ空気が冷たいね~。」
「まだお花も咲かないね~。」
「まだ春は来ないのかな~。」
「早くあったかくならないかな~。」

そのときです。
春の妖精が、子供達の脇を駆け抜けていきました。

「あ、見て。ここにお花が咲いてるよ。」
「この樹はもう芽吹いてるよ。」
「なんだか風があったかいね。」
「急に景色に色がついたみたい。」

少しお寝坊してしまったけれど、春の妖精の魔法は、子供達に春をつれてきました。
もっとも、そのあとで春の妖精は、みんなにいっぱい叱られたんですけどね。^^

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      「不思議なお店」

 そのお店は、大通りから少し引っ込んだところにありました。見たところ、それほどはやっているようではありません。それでも、時折誰かがドアを押して入っていき、満面に笑みをたたえて出てくるのです。

 そのお店には、アクセサリーやインテリアなど、古いものも新しいものも、この国のものも異国のものも、きれいに並べられて置かれています。若い娘さんなどはもちろん、老夫婦や親子連れ・・・そういった様々な人が、この店を訪れるのでした。

 そのお店が、いつ頃からあるのか、それを知っている人はおりません。あるお年寄りは、自分が物心つかぬうちからあったと言いましたし、昨日までは影も形もなかったという若者もおりました。

 そのお店の主人が誰なのか、それを知っている人もおりません。持ち主らしい人を見かけた人もおりません。ただ、そのお店には、いつも4人の美しい娘さんがいるだけです。

 この四人は大変よく似ておりました。それもそのはず、四人は姉妹だったのです。うす桃色の服を着ている人が一番上のお姉さんで、青い服の娘が二番目、三番目は枯れ葉色の服、そして、真っ白の服を着た娘が一番末の妹のようでした。とはいえ、この姉妹の両親がどこで何をしている人かは、結局だれにもわからないのでした。

 さて、このお店のお客さんは、どちらかというと、貧しい人が多いのでした。貧しいけれど、いっしょうけんめい正直に生きている人がこのお店にやってきますと、欲しかったものがふところのおさいふと釣り合うような値段で手に入るのでした。

 たとえば、とある夕方にやってきたのは、働き者の少女でした。もらったばかりのお給料で、家族におみやげを買うつもりだったのですが、どんな品物も高すぎて手が届きません。悲しくなってうつむいて歩いていると、そのお店に行き会いました。ガラス窓からのぞいた中の様子はとてもきれいで。少女はついドアを押して中へ入ってしまいました。

 ーカランコロンカラン

 ドアにつけていた小さなベルが、やさしく鳴り渡ります。四人の娘がいっせいに、
「いらっしゃいませ。」
と、少女に向かって声をかけます。少女は急に恥ずかしくなって、棚の上の品物をぼんやりと見つめておりました。
「何をおさがしですの?」
うす桃色の服を着た娘が、にっこりと微笑みながら少女にたずねます。少女はなぜか魔法にでもかかったように、すらすらと答えてしまいます。
「私の初めてのお給料がはいったから、みんなにおみやげを買いたくて。父さんにはパイプ、母さんには香水、妹にはオルゴール。でもダメね。何もかも高すぎるんだもの。」
「あら、ご自分には?」
青い服の娘が、大きな瞳をみはってたずねます。
「そんな、私のものなんて。そりゃ、もし口紅が買えたらって思うけれど、でも無理だわ。どれか一つを買うことさえできないんです。」
悲しそうな少女を見て、枯れ葉色の服の娘は立ち上がると、少女の言った通りの品物を、彼女の前にそろえました。船長さんがくゆらせるようなパイプ、しっとりと落ち着いた香りの香水、やさしい音色のオルゴール、そしてもちろん、薔薇色の口紅も。それらは、少女が心の中で思い描いていたとおりの物でした。
最後に、白い服の娘が、ぱちぱちとそろばんをはじいて少女に見せます。その値段は、少女のお給料を知っているとしか思えないほど、安いものでした。
少女はびっくりして、そしてとても喜んで、品物とお金とを交換します。そうして、買ったばかりのおみやげを抱きしめながら、一目散に家へと飛んで帰るのです。

 四人の娘たちも、少女に負けないくらい嬉しそうに笑います。

「あの子で九十八人目よ。」
「あと二人ね。百人目までは、もう少し。」
何か意味ありげな言葉も交わされるのでした。

 さて、次の日の朝早く、一人の若者がそのお店へやって来ました。その日は、恋しい娘の誕生日でしたので、なけなしのお金をはたいて、なにか贈り物をしようと考えたのです。
話を聞くと、娘たちはガラスケースの中から、きらきらと輝く銀色の指環をとりだしました。星のまたたきのような、朝露のしずくのようなその輝きは、恋しい娘の無邪気な瞳を思わせました。若者が、おそるおそるたった一つしかない銀貨をさしだすと、一人の娘がそれを受け取り、もう一人がおつりを返し、三人目が指環を包み、四人目がリボンをかけました。そして、声をそろえて、
「ありがとうございました。」
と、若者を送り出したのでした。

 娘たちの言う百人目は、その日の夕暮れにやってきました。それは、小さな男の子でした。大好きなお父さんとお母さんの結婚記念日のお祝いに、何をあげたらよいのでしょうか?ちいさな頭が破裂してしまいそうなくらいに考えたのですけれど、男の子には「これだ」と思うものは見つかりませんでした。
そこで、娘たちは、目の覚めるような美しい花束を、男の子に手渡しました。男の子は嬉しさでにこにこします。これなら、きっと二人とも大喜びしてくれるでしょう。
「お姉さんたち、ありがとう。」
キャンディでべとべとしている唇を、一人ずつのほおにあてると、それが男の子の代金でした。

「百人目が行ってしまったわね。」
駆けていく男の子を見送って、一人の娘が言いました。
「私たちも、もう飛べるかしら?」
「羽はちゃんと生えているのかしら?」
あたりは、もうすっかり夜になっています。

 四人の娘たちは、一人ずつ順番に、布をまとっただけのような服を脱ぎ去ります。すると、白い素肌に妖精の羽を得ることのできた四季の精が誕生します。妖精の羽を手に入れるためには、心豊かな人々の愛と微笑みを、百人分集めなければならなかったのです。人の心の愛とやさしさで満たされて、娘たちは四季折々の喜びや悲しみを、人々の心にふりまいていくのです。

大通りから少し引っ込んだその場所に行っても、そのお店はありません。ただ、とても広いお花畑があって、一年中絶えることなく、いろいろな花を咲かせています。

 そこは、ずっとお花畑だったというお年寄りもいれば、そうではないという若者もいます。だからといって、そこに何があったのか言えるわけではありませんけれど。

 でも、きっとこんなことは珍しくないんじゃないかしら?あなたの近くにも「不思議なお店」はきっとあります。そう、本当に、どこにでもあるようなお話なんです。



                    (FIN)


以前、NAVERのブログに掲載した私の書いたファンタジーです。
クルルに登録しなかったので、過去記事を移行できなくて悩んでいたのですが、急に記事が消えても困るので、童話だけはお引越しさせることにしました。
このお話を書いたのは、大学生のときです。
仲間内で作っていた同人誌に掲載しました^^
妖精が大好きなので、すぐに妖精のお話を書いてしまいます^^;
改めて、ご感想をいただけると幸いです^^



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というわけで、クルルに保管されていた別の童話もアップしますね~♪^^
これも大学生のときに書いたものですが、すっか~り忘れ去られていたお話でした^^;
私の将棋のお友達に「歩兵くん」さんがいらっしゃるのですが、とても素敵な絵をお描きになられます。で、その一つに「公園で読書するちえまろさん」の絵があります^^
秋の風景でイチョウの葉がひらりと舞い落ちてくる中で読書しているちえまろさんがとても素敵です^^
この絵を見たときに、このお話を以前に書いたことを思い出し、ブログにアップさせていただきました。クルルからのお引越し第二弾は「落ち葉編み」のお話です^^

        「落ち葉編み」
少女は一時間以上も公園のそのベンチに座っていました。秋から冬へと季節が変わっていくのが、もう肌で感じられるようになっています。風が吹くたびに、少女の細い体はふるえます。公園の木々はずいぶん葉をおとしています。ほら、また一枚、ベンチの後ろにあるイチョウの葉っぱが風に吹かれて落ちていく・・・。

少女は心の優しい女の子でした。でも、今、心の中は涙でいっぱいになっていました。大好きな少年のためにマフラーを編んだというのに、それはあまりにも不出来で、見れば見るほどみっともなく思えてきたのです。編み直すといっても、少年の誕生日は明日で、もともと器用な方ではない少女が今さらやり直しても明日までに間に合うわけはありません。

「あげるの、やめようかな・・・」そんなことまで思いながら、うっすらと涙でくもった瞳でまわりをぼんやりと眺めていた少女は、「あらっ?」と首をかしげました。ついさっきまで誰も座っていなかったそのベンチに、白髪のきれいな、とっても上品なおばあさんが座っていて、せっせと何かを編んでいます。

こんな寒い日にわざわざ外で編み物をなさるなんて、変わったおばあさんね~と思いながら、その編み物の手さばきの見事さに、少女の目は釘付けになっていました。その編み方は、少女の知っているどんな網方とも違っていて、しかもとても美しい模様があっという間に毛糸に浮かび上がってきます。

少女は何度かためらった後で、ついにおばあさんに声をかけました。
「あの・・・それは何て言う編み方ですか?」

おばあさんは少女の方を振り向いて、優しい声で、
「これかい?これは落ち葉編みって言うんだよ。」
と答えました。
「お上手ですね。そんなにきれいな模様は見たことありません。いいですね・・・」
少女のつぶやくような声に、でも、おばあさんは少し悲しそうになって、
「いいや。どんなにきれいでも、この模様はすごくさびしい感じがしないかい?一人ぼっちで落ちていくこの木の葉っぱのように・・・。」
と言いました。そう言われてみると、たしかにそんな気もします。
「それに比べて、お嬢さん、あんたの今持っているマフラーは、とてもあったかで、やさしい感じがしますよ。」
「でも、きれいな模様もないし、編み目は不ぞろいで、下手で、本当にみっともないんです。」
「心がこもっていれば、それだけで十分きれいなんですよ。でも、そんなに気にしているのなら、私が落ち葉編み刺繍を教えてあげましょう。このとじ針でぬっていくんですよ。」
そう言って、おばあさんが出してくれたとじ針を手にして、少女は一生懸命に模様を編みこみました。

すると、どうでしょう。

マフラーには、そっと寄り添う二枚のイチョウの葉っぱが、くっきりと浮かび上がってきたのです。
「おばあさん、ありがとう。とってもうれしいです。」
少女の言葉に、おばあさんは、
「いいや。こちらこそお礼を言わせてもらいますよ。」
と答えました。不思議そうな顔をする少女に向かって、おばあさんは少し微笑んで続けました。
「落ち葉編みは、今まで葉っぱが一枚一枚分かれてしまう悲しい運命の編み方だったんですよ。でも、お嬢さんの心に触れて、二枚ずつ一緒に編んでいけるようになりましたよ・・・」

少女は何か言おうとしましたけれど、そこにはもう、あのおばあさんの姿はありませんでした。

秋から冬へと季節が変わっていくときです。
またイチョウの木から葉っぱが落ちていきます。でも、不思議なことに、その落ち葉は、二枚ずつからみあって楽しそうに地面まで落ちていくのでした。



       (FIN)


いかがですか?^^


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プロフィール

ゆめ

  • Author:ゆめ
  • ハンゲーム将棋弐と将棋倶楽部24、最近は将棋ウオーズにも出没している将棋大好きな主婦です。
    子供たちも大きくなって、息子は社会人2年目、娘は大学四年生です。
    ペットはミニチュアシュナウザーのセナ(メス)8歳です!
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